この記事を読めばコウモリがいつ、どのように繁殖し、赤ちゃんを産むのかが丸ごと理解できます。
「夕方になると家の軒下からコウモリが飛び出してくる…もしかして、家の中で子どもを産んでいるの?」
そう思って調べ始めた方はきっと少なくないでしょう。
コウモリは秋に交尾して夏に出産する、という一見すると謎めいた繁殖リズムを持っています。
なぜそんなことができるのか。赤ちゃんはどんな姿で生まれてくるのか。
この記事ではコウモリの繁殖にまつわる生態を基礎知識からちょっと驚くような話まで、できるだけわかりやすくお伝えします。
コウモリの繁殖サイクルをざっくり理解する
コウモリの繁殖スケジュールはひと言で言うと
「昆虫が増える夏に、子育てのピークが重なるよう精巧に設計されています」。
秋から冬にかけて交尾をし、翌春に受精して夏に出産するというサイクルが日本に生息するコウモリの基本パターンです。
年に一度だけの発情期という「単発情周期型」
日本を含む温帯に生息するコウモリの多くは単発情周期型と呼ばれるタイプです。
つまり、一年に一回だけ発情して妊娠して子育てまで完結させるわけです。
熱帯に暮らすコウモリには年に2〜3回発情する多発情周期型も存在しますが、日本のコウモリはそうじゃない。
なんか、四季に合わせて一発勝負する感じがあって個人的にはそこがけっこう潔いなと思ったりします。
餌となる昆虫が最も豊富な夏を子育て期に合わせることが幼獣の生存率を高める大切な条件になっています。
冬の虫が少ない時期に生まれた子どもではエネルギーが足りず生き延びるのが難しいですからね。
交尾は秋〜冬、でも受精は春という不思議な仕組み
日本でよく家屋に侵入するアブラコウモリ(別名イエコウモリ)の場合、10月頃に交尾を行います。
ところが、このとき交尾したからといってすぐに妊娠するわけじゃありません。
メスの体内に入った精子は受精せずにそのまま保存され、冬眠を明けた4月下旬頃に排卵が起こって初めて受精が始まるんです。
この独特なタイムラグこそがコウモリの繁殖で最も特徴的な部分と言えるでしょう。
精子保存と着床遅延 コウモリ特有の生殖戦略
コウモリの繁殖を語るうえで絶対に外せないのがこの「受精のコントロール」という話。
正直、哺乳類としてはかなり異例な仕組みで最初に知ったときはちょっと驚きました。
メスの体内で越冬する精子
温帯に生息するコウモリのメスには交尾後に精子を生殖道内で生かしたまま保存する「精子貯蔵型」という仕組みを持つ種がいます。
アブラコウモリがまさにこのタイプで秋に体内に取り込んだ精子を冬眠中もそのまま生存させ続け、春になって暖かくなってきたタイミングで排卵と受精に進みます。
なぜこんな面倒なことをするのか。
それは冬眠中はオスの精子形成能力が低下するからです。
昆虫が減り始める秋のうちにオスが精子をつくって交尾を済ませておき、メスはその精子をいわば「冷凍保存」して春まで持ち越す、という極めて合理的な戦略なんですね。
着床遅延という、もう一つの時間調整方法
精子貯蔵とは別に受精卵が胚盤胞の段階でいったん発育を停止させる「着床遅延型」という戦略を持つ種も存在します。
こちらは受精まで進んだ後に着床を翌春まで待機させるという仕組みで、精子貯蔵型よりさらに発育の後段階で「ポーズ」をかけるイメージです。
どちらもエサの乏しい冬を乗り越えてから子育てを開始するために進化してきたメカニズムとされています。
こういう生物学的なデザインって知れば知るほどなかなか奥が深いなと感じます。
コウモリの出産時期と場所
出産のピークは6月下旬〜7月上旬
農林水産省のデータをみてみると日本産コウモリのほとんどの種で6〜7月に出産と子育てが集中するとされています。
アブラコウモリの場合は本州で6月下旬から7月上旬がピークで、7月に入ると多くの家屋内にコウモリの赤ちゃんがいる状態になります。
なお、妊娠期間は種によって幅がかなりあり体重5〜8gほどの小型種では20〜30日間程度、アブラコウモリは実質的な妊娠期間が2〜3ヶ月ほどとされています。
体重580g前後の大型のオオコウモリだと5〜6ヶ月かかることもあるので、体の大きさと妊娠期間はある程度比例するみたいです。
メスだけが集まる「出産哺育コロニー」
春から初夏にかけて妊娠したメスたちは特定のねぐらに集結し、オスを含まない「出産哺育コロニー」と呼ばれる母系集団を形成します。
家屋の屋根裏や外壁の隙間が言うなれば「巨大な保育園」になってしまうわけです。
メスたちが密集することには理由があって体温を高く保つことで胎児や幼獣の成長スピードを引き上げるためです。
わずか1ヶ月しかない授乳期間のなかで赤ちゃんを自立させるためには温度管理が非常に重要なんですね。
前年の娘たちも同じコロニーに戻ってくる傾向があるので世代をまたいだ大きな集団になることも珍しくないそうです。
出産の姿勢と胎盤を食べるという行動
コウモリが逆さまにぶら下がったまま出産するというイメージがありますが、アブラコウモリは頭を上にして壁面にしがみついた状態で出産することが多いとされています。
尾膜をポケット状に丸めて、生まれてきた赤ちゃんをそこで受け止めるんです。
出産後、母親は胎盤やへその緒を自ら食べて処理します。
これは栄養の再利用とにおいを残さないためという意味があるとされています。
野生動物としての生存戦略がここにも出ているなと思いますね。
赤ちゃんコウモリの成長と子育て
母体の20〜30%に達する「巨大な赤ちゃん」
人間の新生児の体重は母親の体重の約5%程度ですが、小型コウモリの場合は母体の20〜30%前後、種によっては40%近い値が記録されていることがあります。
飛行できる哺乳類としては、これはかなり大きな出産負担です。
そのわりに成長速度は哺乳類の中で遅めなので、授乳期間中にかなりのエネルギーを投入することになります。
ただ、食虫性コウモリの母乳は脂肪とタンパク質の含有量がとても高く、エネルギー密度が濃縮されているとされています。
なぜなら1ヶ月で飛べるようにしないといけないからなんです。
特殊な乳歯と声、においによる子の識別
生まれたばかりの赤ちゃんは、翼膜こそ未発達ですが後足と前肢の親指はすでに成体の7〜8割近いサイズに達しています。
生まれた瞬間から壁面に自力でしがみつけるのです。
さらに面白いのは多くの小型コウモリの幼獣は内側に湾曲した鋭い乳歯を持っていること
母親の乳首に噛みついたときに簡単に外れないための形状で、出産哺育コロニーの中では母親が飛び回っても赤ちゃんがついてこられる仕組みになっています。
数千頭が密集する暗いねぐらの中で母親が自分の子を見つけるには、「ディレクティブ・コール」と呼ばれる特定の呼びかけ音とにおいが手がかりになります。
取り違えはほとんど起こらないとされる研究もある一方で、一部の種(メキシコオヒキコウモリなど)では母親が自分以外の子にも授乳する「共同哺育」が観察されているというデータもあります。
生後約1ヶ月で巣立ち そして翌年には親になれる
アブラコウモリの場合、生後30日程度で離乳して巣立つとされています。
生後2〜3週頃から翼を広げて羽ばたきの練習を始め、1ヶ月後には体のサイズがほぼ成体と同等になって自力で昆虫を捕れるようになります。
そして驚くことに夏に生まれた子どもは生後10ヶ月ほどで繁殖が可能な状態に達します。
翌年の繁殖シーズンにはもう自分が子どもを産める成体になっているのです。
一度の出産数こそ多くないものの、成熟が早いため、気づいたときには家屋内で群れが大きくなっていたというケースも少なくありません。
温暖化がコウモリの繁殖に与えている影響
近年の地球温暖化によって冬の気温が以前より高くなったことでコウモリの繁殖が活発化していると言われています。
本来は冬眠しているはずの時期にも活動が観察されるケースが増えていて、受精のタイミングが前倒しになる可能性も指摘されています。
ある調査では一般的な発情期(8〜10月)に加えて、1〜2月に捕獲されたオス個体の50%、メス個体の20%から発情の兆候が確認されたという報告もあります。
これが正確にどのくらい繁殖サイクル全体に影響するのかはまだ研究途上の部分も多いようです
ただ、温暖化が続く限り、今後もコウモリの行動範囲や活動時期が変化していく可能性は十分にありそうですね。
まとめ
- コウモリ(主にアブラコウモリ)は年に一度、秋(10月頃)に交尾し、翌春に受精して6月下旬〜7月上旬に出産する
- 精子貯蔵・着床遅延という独自の仕組みで昆虫が豊富な夏に授乳のピークを合わせる
- 一度の出産数はアブラコウモリで1〜4頭(平均2〜3頭)。多くの種は1産1子が基本
- 赤ちゃんは母体の20〜30%前後の大きさで生まれ、特殊な乳歯で母親にしがみつく
- 生後約30日で離乳、巣立ちして生後10ヶ月ほどで繁殖可能な成体になる
- 妊娠中・授乳中のメスは「出産哺育コロニー」を形成。オスを含まない母系集団で体温を共有しながら子育てする
- 温暖化の影響で繁殖活動が活発化したり前倒しになる傾向が見られ始めている
コウモリの繁殖について詳しく調べていて、もし「自分の家にコウモリが住み着いているかも」と感じたら、対応できる時期とできない時期があることも知っておくのが大切です。
幼獣がいる6月下旬〜8月上旬頃は専門家への相談を先行させることをおすすめします。
コメント