この記事を読めばハクビシンが外来種か在来種かという長年の議論と、それが科学的にどう決着したのかがよくわかります。
「庭によく出るあの動物、そもそも日本の生き物なの?」
と疑問に思っている方にこそ読んでほしい内容です。
結論を先に行っておくとハクビシンは外来種です。
長年つづいた「外来、在来論争」
論争のはじまりは1952年
この問いへの答えって実はつい最近まで出ていなかったんです。
1952年の日本哺乳類動物学会の例会以来、ハクビシンが外来種か在来種かという議論がつづいてきました。
なぜこんなに長引いたかというと
「外来種っぽい証拠」も「在来種っぽい証拠」も、どちらもそれなりに存在していたから。
どっちかに断言できない状況が70年以上もつづいていたわけです。
在来種説の考え方
在来種説を支えていた主な根拠は2つあります。
ひとつは江戸時代の国学者の山岡浚明が著した事典「類聚名物考」に「雷獣」として描かれた動物の絵が、ハクビシンによく似ているという点です。

体長60cm程度で鼻から額にかけて白い斑があり、しっぽが長い…その描写がハクビシンとほぼ一致していたんです。
もうひとつは動物学者の今泉(1977)による形態学的な調査です。
日本のハクビシンの頭骨や顔の斑紋は国外のどの地域のものにも該当しないという結果が出ていて、これが「日本固有の在来種では?」という説を後押ししていました。
まあ、逆に言えばそれだけ長く日本に適応してきた可能性もあるという話ですけど。
外来種説の考え方
とはいっても外来種説の方がずっと有力視されていました。
化石と骨の記録がゼロ、というのが最大のポイントです。
ニホンザルやタヌキ、キツネなど在来の哺乳類は更新世(約258万年前〜1万1700年前)以降の地層から化石が見つかっています。
ところがハクビシンの化石はこれまで日本で一度も発見されていません。縄文時代の貝塚からも、ハクビシンの骨は一切出てこない。
それに加えて分布が不連続だったという問題も。
在来種の動物は生息域が連続的ですがハクビシンの分布は飛び石状に点在していて、しかも最近になって広がっている傾向が明らかでした。
1940年代に静岡県で初めて記録されたあとそこから徐々に各地に広がっていったような分布パターンを示していたんです。
遺伝子解析がついに決着をつけた
DNA解析が明かした衝撃の事実
長年の議論に科学的な答えを出したのが北海道大学の増田隆一特任教授(当時)によるDNA研究です。
増田先生は日本全国と台湾のハクビシン合計206個体のミトコンドリアDNAを分析しました。
ミトコンドリアDNAは母系のみから受け継がれる特殊な遺伝子で家系をたどるのに非常に向いているんです。
その結果、驚くべき事実が判明しました。
東日本(関東)の集団は台湾西部のハクビシンと、西日本(中部・四国)の集団は台湾東部のハクビシンと、それぞれ同じ遺伝子タイプを持っていたのです。
2つのルートで台湾から来た
さらに研究を深めると台湾から日本には少なくとも2ルートで導入された可能性が高いことがわかってきました。
マイクロサテライトDNA(父母双方から受け継ぐ遺伝子)を使った解析では日本の集団は中部や関東、四国の3グループに分かれ、台湾の集団がちょうどその中間的な特徴を持っていました。
しかも日本の集団は台湾に比べて遺伝的多様性がはるかに低く、これは「少数の個体が台湾から持ち込まれて、まだ日が浅い」証拠だと考えられています。
台湾にとても近い遺伝子、それなのに日本固有の化石は皆無。
これ、もう外来種だと言うしかないですよね。
2015年、国が正式に「外来種」認定
この一連の遺伝子研究を受けて日本政府は2015年にハクビシンを「生態系被害防止外来種リスト」の重点対策外来種に選定しました。
それまでは鳥獣保護管理法上の「狩猟鳥獣」という扱いだったんですが、ここで初めて国として「外来種」と正式に位置づけたわけです。
ただ、アライグマやフイリマングースが指定されている「特定外来生物」にはまだ指定されていません。
いつ、なぜ日本に持ち込まれたのか
毛皮目的の輸入という説
「では、誰がいつ日本に連れてきたの?」
という疑問は当然わきますよね。
最有力の説は毛皮用途で台湾から輸入されたというものです。
日本が台湾を統治していた1895年から1945年の間に毛皮目的で輸入された記録が残っています。
戦時中には特に台湾からの輸入が活発だったとされています。
養殖施設から脱走した個体が野生化したケースも考えられていて、それが今の飛び石状の分布につながったのかもしれません。
江戸時代にはすでにいた可能性も
ちょっと面白いのは毛皮輸入よりずっと前の江戸時代の文書にもハクビシンらしき記述が残っていること。
完全に外来種だとしても、日本に持ち込まれた歴史はかなり長い可能性があります。
あくまで推測ですが毛皮用や食用目的で複数回にわたって断続的に持ち込まれていたとも考えられます。
外来種だとわかってからの話
生態系への影響と今後
ハクビシンはタヌキやアナグマと果物の好みが重なるため在来種との食物競合が生じている可能性があります。
木登りが苦手なタヌキやアナグマとは樹上の住み分けができているとも言われますが、食べ物レベルでの競争は避けられないようです。
とはいえすでに生息域がここまで広がってしまった以上、完全な駆除は現実的ではないというのが研究者の見方です。
農作物や人家への被害を最小限に抑えながら共存していくことが現実的な方向性とされています。
種子散布者としての役割(果実を食べ、糞の中に種を含んで移動することで植物が広がる)という、生態系の中でのプラスの側面もゼロではないと指摘されています。
まとめ
- ハクビシンは遺伝子解析の結果、台湾由来の外来種であることが科学的に立証されている
- 日本国内では化石や骨の発掘記録がゼロで、縄文時代の貝塚からも発見されていない
- 東日本は台湾西部、西日本は台湾東部のハクビシンとそれぞれ遺伝的につながっていて、少なくとも2ルートで導入されたと考えられている
- 毛皮目的での輸入が主な持ち込み理由とされ、脱走個体が野生化した可能性が高い
- 2015年に「生態系被害防止外来種リスト」の重点対策外来種に選定され、国として外来種と正式に認定された
- ただし特定外来生物には未指定であり、対策と法整備の在り方は現在も議論中

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