この記事を読めばコウモリにまつわる妖怪と伝説の全体像がわかります。
日本の野衾(のぶすま)から中国の縁起物信仰、マヤ文明の死の神まで世界各地でコウモリがどう語られてきたのかを徹底的に掘り下げています。
「怖い生き物」のイメージが先行しがちなコウモリですが実は文化によってまったく逆の意味を持っていたりするんですよね。
気になりませんか?
コウモリは妖怪になる動物だった
日本の妖怪文化においてコウモリは「長く生きると化ける動物」の筆頭格のひとつです。
野衾(のぶすま) コウモリが化けた夜の怪物
江戸時代の奇談集『絵本百物語』(1841年刊)によると年老いたコウモリがやがて妖怪・野衾(のぶすま)に変化するとされていました。
野衾の「衾」は布団を意味していて、まさに夜の闇にひそむ布団のように人を覆い被さる怪物のイメージです。
飛翔能力を持ち、人を目隠ししたり、動物や人の血を吸うとも言われています。
山間部の地域では「野衾に覆われると死ぬ」と恐れられていて子どもを夜間に外へ出さないための戒めとしても語り継がれてきたみたいです。
山地乳(やまちち) さらに年老いた先にある姿
これがなかなか恐ろしくて。
コウモリが長年を経て野衾になり、さらに年月が重なると山地乳(やまちち)という別の妖怪に進化するとされているんです。
山地乳は一見するとサルに似た姿をしていて眠っている人間に近づいて口から生気を吸い取り、そのまま胸をたたいて去ると、翌日その人は死んでしまうと伝わっています。
ただ、途中で邪魔が入ると逆に非常に長生きになるという話もあってうーん、これって一種の運命分岐みたいで面白いなと思いました。
野鉄砲(のでっぽう)とコウモリの関係
英語圏の妖怪研究サイトyokai.comなどでも取り上げられているのが、「野鉄砲(のでっぽう)」という妖怪。
トダヌキが変化した姿とも言われているんですがこの妖怪は口からコウモリの群れを吐き出すという特技を持っているそうです。
吐き出されたコウモリに取り囲まれた被害者は目隠し状態になり、その隙に血を吸われるという仕組みで、なんというか…かなりグロテスクな伝承ですよね。
コウモリが「恐怖の道具」として使われているのが印象的でした。
日本のコウモリ伝承が変わったのはいつか
「実は日本でも、もともとコウモリは縁起がいい生き物として見られていた」
というのはあまり知られていないんです。
江戸時代まで吉兆の動物だった可能性
コウモリが不吉なイメージになったのは西洋文化の影響が入ってきてからという指摘があります。
中国文化を土台にしていた日本では、もともとコウモリを「子宝に恵まれる、めでたい動物」として見ていた時代があったようです。
広島県福山市の市章がコウモリをモチーフにしているのも、福山城周辺が「蝙蝠山」と呼ばれていたことに由来しているんですよ。
イソップ寓話の「ずるいコウモリ」
コウモリに対するネガティブなイメージのひとつに「日和見主義」があります。
これはイソップ寓話「鳥と獣とコウモリ」が元で、鳥と獣が戦う場面でどちらにも味方し、最終的に両方から嫌われるというストーリー。
日本でも民話として定着していて「時勢によって裏切る人」のことを「コウモリ」と呼ぶ慣習はここから来ているとされています。
世界の神話に登場するコウモリの神
日本や中国だけでなく世界各地の神話にもコウモリは顔を出しています。
マヤ文明の死のコウモリ神・カマソッソ
中央アメリカに伝わる最も有名なコウモリの神がマヤ文明のカマソッソ(Camazotz)。
名前は「死のコウモリ」を意味していて、鼻が反り立った人型のコウモリの姿をしているとされます。
冥界「シバルバー」にある「コウモリの家」を住処とし、血を糧に生きる恐ろしい存在として語られてきました。
モデルになったのはかつて中央アメリカの空を飛び回っていたという巨大な吸血コウモリの一種だと研究者たちは考えています。
カマソッソ信仰は紀元前100年頃にはすでに存在していたとも言われていて、いかに古い信仰かがわかります。
ギリシア・欧州の洞窟とコウモリ
ギリシア神話でも洞窟は冥界への入り口とされていました。コウモリは暗い洞窟に住む動物なので、自然と「死」「冥界」「暗闇」のイメージと結びついていったんだと思います。
ヨーロッパのドラキュラ伝説においてコウモリが吸血鬼の象徴となったのもこの洞窟=冥界というイメージが根底にある気がしています。
「野衾」が語る日本妖怪の面白い法則
コウモリの伝承を掘り下げると日本の妖怪文化の面白い特徴が見えてきます。
動物が「年を経ると妖怪になる」という思想
野衾の話を読んでいて気づいたんですがコウモリが野衾になり、野衾がさらに山地乳になるという「段階的な妖怪進化」の考え方ってかなり独特だと思うんですよね。
これは日本の妖怪観の根底にある「あらゆる生き物は長く生きると霊的な力を持つ」という思想と深く関係しています。古くなった道具が付喪神(つくもがみ)になるのと同じ発想です。
コウモリは「夜に飛ぶ・洞窟に住む・逆さにぶら下がる」という習性が人間の直感に反していたのでとくに「異界とつながる動物」として意識されやすかったのかもしれません。
そういう観察眼から生まれた伝承だと思うとなんか江戸時代の人たちって観察力が鋭かったんだなと感じますね。
宮本武蔵と巨大コウモリの浮世絵
歴史上の剣豪・宮本武蔵と巨大なコウモリが戦う場面が複数の浮世絵に描かれています。
武蔵の強さを表現するために「超自然的な存在との戦い」が描かれたわけで、その相手としてコウモリが選ばれたのは、当時のコウモリへの畏怖が相当なものだったからでしょう。
あくまで個人的な見立てですが武蔵が戦う相手として「化けコウモリ」が使われるほど、コウモリは江戸時代において強烈な恐怖のシンボルだったのかもしれません。
まとめ コウモリは「恐怖」と「幸福」の両面を持つ生き物
- 日本ではコウモリが長生きすると「野衾」、さらに「山地乳」へと進化するという段階的な妖怪伝承がある
- 野衾は人の血を吸い、山地乳は眠っている人の生気を奪うという恐ろしい存在として語り継がれてきた
- 中国では「蝠(フー)=福(フー)」の語呂合わせから、コウモリは幸福と富の縁起物として定着している
- 韓国でも「蝙蝠(パクチュィ)」の「蝠」が「福(ポク)」に通じるとして、ポジャギなどの伝統工芸にコウモリ模様が使われてきた
- マヤ文明のカマソッソは死と生贄を司る「死のコウモリ神」で紀元前100年頃から信仰されていた
- 日本でコウモリが不吉なイメージになったのは西洋文化の影響が入ってからで、もともとは吉兆の生き物として見られていた時代もあった
- イソップ寓話の「ずるいコウモリ」が元で、日和見主義の人をコウモリと呼ぶ表現が生まれた
夜空を飛ぶコウモリを見たと、「縁起がいい」と感じるか「不気味だ」と感じるかは、あなたがどの文化の視点で見ているかによって変わってくるのかもしれません。



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